映画レビュー/概要

738本目 由宇子の天秤
2021年
監督:春本雄二郎
主演:瀧内公美
評価:★★★★★

あらすじ
ドキュメンタリーディレクターの木下由宇子。
彼女は3年前に起きた女子高生いじめ自殺事件の真相を追い、番組制作を進めていた。

制作を進める中で由宇子は父のとある行動を知り、「正しさとはいったい何なのか?」と問う程の選択を次々と迫られる。


目次
  • 正しいことってなんでしたっけ?
  • ラストまで心を締め付ける



  • 正しいことってなんでしたっけ?

    ドキュメンタリー番組を制作する由宇子が、実際の事件の真実を明るみにしようとすることと同時に、別の”出来事”に対しても善処しなければいけないという、映画界における運のステータスがマイナスな主人公を追う物語。

    若干茶化した書き方しましたが、ストーリーは至って大真面目。
    こんなに真面目すぎる作品を観たのは大分久しぶりですが、それを差し引きしたとしても格段に面白い作品でした。

    今回はネタバレなしとして進めていきますので、ご覧になられていない方につきましては、是非とも映画館に足を運んでいただきたいとおもいます。
    ただし、メンタル状態が不安定な方はお控えいただいたほうがいいかもです。

    結構トラウマを思い出すトリガーがいくつも散りばめられているので、場合によっては嫌なことを思い出しそうだなと。

    ラストまで心を締め付ける

    由宇子がドキュメンタリーを撮影しつつ、別の仕事として塾の教師をやりつつという生活の中で、常に迫られる選択肢。
    ゲームではAかBかを選ぶことはしばしばありますが、由宇子の場合は基本バッドエンディングに向けた最悪な選択肢ばかり。
    救いはないんですか!?!?って思うことすら簡単にさせてくれない。
    それがこの映画の深いところであり面白さを感じる部分でもあります。

    よく映画の物語では、ヒーローが悪役をやっつけて終了、悪の組織を壊滅させて良かったね。という話はよくありますよね。
    人を助ける、というのは言葉にしろ行動にしろかんたんに取れることではありますが、それっと本当にいかなる時でも同等なんだっけ?というのを考えさせてくれるのが今作です。

    いろんな事情が絡むとそうかんたんには解決できないですよね。
    特に、メディアという媒体が広めた”事実”は誰彼に対して本当の真実を伝えているとはわからず、裏では別の被害者が居るかもしれない。
    ネットニュースも含めですが、メディアで取り上げられている事件。その裏では、我々が知り得ない話があるかもしれない。
    それを考えると、単にその犯人の方を気軽にSNSで中傷してもいいものか。
    中傷することによって、被害者が新たに出てきてしまうのではないか。

    1つの事象がこんなにも多くの人に波及してしまうものなのだ、というのを一身に由宇子が受けるとともに、それだけでは済まされない様々な人間関係と事件が交錯し、衝撃的なエンディングへ。

    言葉で語るのは無粋です。約2時間30分ほどありますが、基本的にほぼほぼ重苦しい時間が続きます。
    こんなに苦しいと思いながら観続けた映画はある意味初めてかもしれません。
    救われるかもしれない、と思ってもそれは本当に万人にとって救いにならない。
    そんな狭間で葛藤する由宇子のことを思うと、ずっと心臓のあたりを押され続けているような圧迫感。

    2021年、面白い映画をたくさん見てきたなぁと思っていましたが、本年度トップクラスに推せる作品でした。





    「私は手助けすることはできません。ですが、明るく照らすことはできます。  --木下由宇子」
    #鳴海の一人でキネマ
    #由宇子の天秤
    #映画レビュー